The Icons - Mens Shorts
THE SHORTS
『GQ』誌のスタイルエディター、ザック・マウイは春から11月頃まではショートパンツが手放せないという熱狂的なショートパンツ愛好家である。快適さと使い勝手の良さでショートパンツに勝るアイテムはないと熱弁するマウイがショートパンツに魅せられた魅力とは?


「自分でもなぜこれほどショートパンツが好きなのかわからないんです。おそらく、歴史上のベストドレッサーたちがショートパンツをスタイリッシュに穿きこなしていたからだと思います」―― ザック・マウイ
人間が衣服を身にまとうようになった時から、男性は丈の短いパンツを穿き続けている。ショートパンツが生まれたのは19世紀のこと。考案したのは、英国海軍が配備されていた英国領バミューダ諸島でティーショップを営んでいたナサニエル・コクストンだ。当時、水兵たちはバミューダ特有の気候に馴染めず常に暑さに悩まされていた。そこでコクストンは軍服のパンツを膝上15センチでカットしたのだ――、バミューダパンツ誕生の瞬間である。現代において私たちがショートパンツを楽しめるのは、バミューダで知ったショートパンツのデザイン性や機能性、快適さをイギリス本土に持ち帰って伝えた当時の水兵たちのおかげなのだ。
歴史を振り返ってみても、男性のショートパンツ姿は常に賛否両論の的だったし、おそらくこの先もそうだろう。有名な英国人デザイナーのハーディ・エイミスは、自身の著書『ABC of Men7s Fashion』の中で、こう記している。「人は誰でもリラックスしたいと思うもので、それは“脱スタンダード”の要因となってきた。男性はビーチで過ごす時か散歩に出かける時以外、ショートパンツを穿くべきではない」。
私はハーディ・エイミスを敬愛してはいるが、この点は賛同できかねる。私はふくらはぎを見せることに何の抵抗もなければ、太腿を晒すこともまったく厭わない性質なのだ。膝下まであるものより、膝上のショートパンツの方が圧倒的に好きだという点では、TikTok世代と同じ感覚なのかもしれない。デニムからコットン、リネン、ヘンプまで、どんな素材でも構わない。
だが、これまでずっとショートパンツを愛用してきた訳ではない。もちろん子供の頃は短パン好きで (母親のチョイスだが)、アクションマンの人形で遊ぶ時も、レゴのハリーポッターモデルを作る時も、いつだって短パン姿だった。しかし大きくなるにつれ、特に10代になるとショートパンツは穿かなくなった。どうやってスタイリングすればいいかがわからなかったのも、理由のひとつかもしれない。その頃からアバクロンビー&フィッチのフーディやジーンズ、ジャック ウィルスのポロシャツやチノパンが定番の「ファッション暗黒期」へと突入した。

ここ10年間の私は紛れもないショートパンツ男子である。ひょっとすると、卒業後に「トップマン」の店員として働いていた時、アバクロンビー&フィッチのフーディーやジーンズ以外の世界があるのだと気づいてから、再びショートパンツを好んで穿くようになったのかもしれない。ショートパンツというものは、私の定義では膝上10センチ以上の短い丈のパンツを意味するのだが、まさに真冬を除く3シーズンにわたって私のスタイリングの中心アイテムとして活躍している。
冬でも、11月半ばのギリギリ耐えられる時期までショートパンツを穿いている。オフィスに穿いていくこともあるのだが、ありがたいことにクリエイティブ業界ではそれもアリなのだ。もちろん銀行や法律事務所などお堅い場所に行く時は長いパンツに穿き替えているのでご安心を。とはいえ、ショートパンツを受け入れるフォーマルな場がなぜこうも少ないのかと、私は常に疑問を抱いている。きちんとしたテーラード仕立てのショートパンツに、アイロンがけしたシャツと軽いジャケットを合わせれば、充分スマートに見えるのだから。
私はどうしてこんなにショートパンツが好きなのか、実は自分でもよくわかっていない。歴史を振り返ってみても、着こなしに定評のある男性が皆、ショートパンツを素敵に穿きこなしていたからだろうか。若き日のハリソン・フォードは、太ももあたりまで短くカットされたショートパンツに襟のボタンを外したポロシャツをタックインしていて、本当に格好良かった。
エルトン・ジョンも若い頃はショートパンツを好んで穿いていたが、その出で立ちはアレッサンドロ・ミケーレの手掛けるグッチの最新コレクションのムードボードに登場してもおかしくないほどオシャレだった。そしてハリー・スタイルズは、数シーズン前、まさにそのグッチのデイジー・デューク風 (腿がほとんど露出するほど短くカットオフしたデニムのショートパンツ) を着こなしていた。それを見て、私のショートパンツ魂が刺激されたことは間違いない。
ショートパンツのスタイリングを考えるのは本当に楽しい。私の場合、Tシャツでもポロシャツでも、前出のハリソン・フォードのように、基本的にトップスはタックインするようにしているが、シャツなら裾を出しても構わないと思っている。フーディーはショートパンツとの相性は抜群だが、オーバーサイズであることが鉄則だ。
だからアバクロンビー&フィッチは選択肢から外れることになる。スタイリングの参考にしているブランドは、まずグッチの名が挙がる。やんちゃなプレッピーとでいうか、太腿あたりで短くカットし、ハイソックスやニットベストを合わせたルックは秀逸だ。アクネ ストゥディオズは、白シャツに合わせて大人版スクールボーイ風にまとめているのがいい。プラダのストライプ柄のショートパンツは最も丈が短く、かつてビートルズがビーチの小旅行に行った時に穿いていたショートパンツを思わせる。
冬の気配が漂い始めても私は依然としてショートパンツを愛用し続けている。ソックスを厚手のものに替え、ビルケンシュトックのサボかチャッカーブーツを履いて上半身は厚手でオーバーサイズのニットやフーディを着込めば多少の寒さはやり過ごせるものだ。
ショートパンツに思い入れがあるかどうかは関係なく、踝まで覆ういわゆる「パンツ」ではどうにもダメだという瞬間は絶対にある。本当に暑い日に長いパンツを穿くのは、ある意味拷問でしかない。この夏、長いパンツは少しお休みにしてショートパンツに挑戦してみてはいかがだろうか。